現実的な判断ができない人が陥る転職の落とし穴
転職を希望すれば、誰でもすぐできるわけではありません。今は転職エージェントやキャリアコンサルタントと呼ばれるサービスが充実してきており、以前と比べればだいぶ転職しやすい環境が整ってきていると言えるでしょう。
それでも、転職できない人や、転職後にそれを失敗だったと感じる人は少なくありません。
転職に失敗する人には多くの共通点があります。転職失敗者に当てはまる特徴や転職希望者が持つべき心得えなどをまとめました。自身にその特徴が当てはまっていないかをチェックしつつ、最良の転職活動をスタートさせるために活用してください。
転職を成功させる“自分軸”と現実
自分の“軸”がどこにあるかが分かれ道
転職を希望する人がまず用意しなければならないものを1つ挙げるとすれば、それは“自分軸”です。曖昧な言葉に聞こえるかもしれませんが、これは重要です。これがないと、おそらく転職活動をしても上手くはいきません。
・転職によって何を目指しているのか
・希望のキャリアは転職によってしか実現できないのか
・自分の持ち合わせている能力や経歴の価値を把握しているか
・転職市場や希望業界に関する情報をしっかりと持っているか
これらが全て明確になっていれば、その人は軸をしっかりと据えていると言えるでしょう。どんなに転職活動を頑張っても望む通りの結果にはたどりつきません。
実際に転職エージェントのキャリアコンサルタントに相談をする人の中にも、これが定まっていない人がたくさんいます。コンサルタントが転職希望者に「どのような仕事がしたいのか」と尋ねても、「今よりもやりがいがあれば何でもやります」と曖昧に答えたり、「マーケティングに興味があるけど、できますかね?」と浅い考えで転職しようとする人もいるほど。
キャリアコンサルタントもさすがにこのような人には優良案件は紹介できません。大した条件ではない案件であっても、採用されるのは難しくなってしまうでしょう。
自分が結果を残してもいないのに転職を望む人も少なくありません。自らの価値を誤って認識していることも多いですし、そもそもそのようなことを考えたこともないような人が転職を希望しているのです。
これでは、自らの収入を全く把握していないのに好きなものをどんどん購入してしまうようなもの。幸いお金がなければものを買うのは難しいですし、一定の収入がなければ借り入れなどができない仕組みにはなっています。市場価値の低い人がむやみに転職するのは、自己破産へと突っ走るのと同じです。
もし不要な失敗を避けたいのなら、確固たる軸を定めてください。具体的には上で挙げた4つの要素についてスラスラと答えられるようにしておくことがそうです。これが転職に成功するための最低条件です。
憧れだけで転職を志すと陥ること
社会人になっても憧れを抱くことは、決して悪いことではありません。むしろ、素晴らしいことでしょう。しかし、憧れだけで転職を志せば、それも失敗へと確実に向かうことになってしまいます。
憧れを実現できる人は、そもそもそれだけの努力をしている人か、もともと飛び抜けた才能を持っている人に限られます。そのどちらもない人が憧れだけを抱いて転職エージェントに相談に行っても、キャリアコンサルタントも紹介のしようがありません。
事実、「あの大手企業に転職したい」と具体的な希望を携えてキャリアコンサルタントの元を訪れる人もいます。大手企業は採用のために高いハードルを用意しており、よほどの経歴を残し実績を積み上げていなければ採用は難しいのが実情です。このように申し出る人ほど実績や経歴が乏しく、ただただ憧れだけでコンサルタントに希望を伝えていることが多いのです。
何を考えているのかと言えば、まさに憧れだけで転職を志しているわけです。そして、転職エージェントを頼ればそれが実現すると考えているわけです。
「憧れ」という強い動機は行動力こそ生み出しますが、実力が伴っていないと転職が成功するわけがなく、失敗する可能性しかないと言ってもおかしくはありません。
多くの人が憧れるものには、それを手に入れるために大きな壁が目の前にあると自覚しておく必要があります。実績を残していない人にとって、その壁は到底越えることのできない高くて分厚いもの。それは実際に転職活動を行うことで徐々に把握できてくるものなのですが、子供のようにただ憧れている状態ではなかなか見えてはきません。
だからこそ、ここで一度認識しておきましょう。決して憧れのみで転職ができると勘違いしないようにしてください。
現実を直視しなければ得られない転職の成功
“軸”が曖昧なまま転職に乗り出そうとしている人も、憧れだけで転職を志そうとしている人も、共通しているのは「現実を直視していないこと」です。「いつまで夢みたいなこと言っているのか」、「現実社会はそんなに甘いものではないぞ」という言葉は、大人が子供に対してよく用いる表現です。でも転職に失敗してしまう人の多くは、こうした言葉を投げかけられても仕方がないような行動を取ろうとしているのかもしれないと自覚しておくべきなのかもしれません。
現実を見なければ転職は成功しないわけです。では、この「現実を見る」とは具体的に何を見ることなのでしょうか。
・未経験の業界や職種の内情及び現状
・気になる企業の内情及び現状
・自分自身の市場価値
・転職エージェントの役割
憧れのまま転職活動へと向かってしまう人は、これらの現実を直視していない典型です。いくら華やかに見える業界や職種であっても、実際にはそのイメージとは異なる業務や苦労があり、必ずそこには大きな苦労が存在しています。それを無視して転職してしまえば、「こんなはずではなかった」、「思っていたのとは違う」と思います。その時に現実に直面しても後の祭りです。
学生時の就職活動であれば、そうした失敗は必要なのかもしれません。社会勉強にもなりますし、次の職場探しの際には入念に情報を集めるはずで、慎重に入社先を決定するための経験にもなるでしょうから。
しかし、すでに社会人として働いている人が転職時に現実を直視していないのはいただけませんよね。そのような人は、何度転職しても同じ過ちを繰り返すことになるでしょう。
自分自身の市場価値を知るという点については既にほとんど説明しているので詳細は割愛しますが、憧れと適性は違うと自覚することがとても重要です。自分にはどのような仕事が向いているのかを考えることこそ、現実と向き合うということ。ここから逃げてはいけません。
また、転職エージェントに相談すれば必ず転職できるとも思わないこと。キャリアコンサルタントは、相談者の価値に見合った企業を紹介するのが仕事です。いくら希望の企業・業界・職種があったとしても、本人のキャリアやスキルとマッチしていなければ紹介は難しいのです。
うまくいく転職の心構えとは
コツコツと仕事をすることを厭わないあり方
人間は、「なぜ自分だけ」と思いがちです。人の心を推し量ることはできても同じ思いをすることは不可能なわけですから、どうしても自分だけが嫌な思いをしていると思い込んでしまうのも仕方がないでしょう。しかし、現状が辛いからといって、そこから逃げ出してもパラダイスはありません。
「こんな地味な仕事はしたくない」、「もっと大きなプロジェクトに関わりたい」、「社会人になってまで上司や取引先に叱られるのはうんざりだ」という考えから転職を検討し始めてはいないでしょうか。
これまで経験のしたことがない職種への転職を希望する人や、ある程度名の知られた企業への転職を希望する人は、そのほとんどが勘違いをしている可能性が高い。つまり、イメージを頼りにし過ぎているのです。
現在勤めている会社がブラック企業であり、法的に問題のある行為によって社員を苦しめているのであれば、それは即座に転職すべきでしょう。しかし、そうではない場合、おそらく他の企業へ行っても、同じような感覚を必ず味わうことになるはず。
コツコツと仕事をこなすことや、イメージで伝わってくること以外の地味な仕事を行うことも厭わないような心構えを持つようにしておく必要があるのです。
キャリアコンサルタントはもちろん、企業の採用担当者も、あなたがどの程度の認識や価値観を持ち合わせているのか、面接でだいたい見抜かれます。発言ばかりが大きく、しかしそれに見合ったキャリアがない場合には、「この人は口だけだ」と判断されてしまい、結果、転職の成功から遠のいてしまいます。
地味な作業のない仕事などありません。どんな業界どんな職種であっても、コツコツとした業務を積み上げることで華やかな仕事へと繋がります。転職したいなら、それを成功させたいなら、困難や面倒を受け入れる準備を整えておくこと。その心構えを持っているなら、それは転職の準備が整った証です。
自らの経歴に見合った転職とは
自分の大きな夢を転職に託す人は、自らの経歴を全く無視している傾向が見られます。野球経験のない大人が「プロ野球選手になりたい!」という夢を掲げても、誰にも相手にしてもらえるはずがありません。自らの経歴に見合っていない転職先を希望することは、これに近い感覚です。
もちろん未経験の職種には転職すべきではない、というわけではありません。仕事ができる人は、大抵どの仕事でも一定以上の成果を残すことが可能です。逆に、仕事ができない人というのは、別の仕事を始めたとしても成果や結果が残せない可能性が高いのです。
もちろん、突き抜けて才能を発揮する人もいますが、少なくとも、自らの経歴をまるっきり無視して転職先を探すことは避けなければいけません。
「この仕事は自分に向いていない、だから他の職種へと転職しよう」と考えていませんか。なぜその仕事が向いていないのかを考えず、もし「結果が出ないから」などという理由なのであれば、もう一度じっくりと向き合ってみてください。そのままでは本当に向いている仕事を見つけることが難しく、もしそれに出会ったとしても気付かない可能性があるからです。自分自身のことを正確に分析できていないことと、仕事で成果を出すためにはある程度の時間がかかることを理解できているでしょうか。
未経験の職種へと転職する場合には、必ず「前職の仕事で身につけたスキルや知識を、別の職種へと活かす」ことが求められます。新たな人材を探している企業は、少なくともこれまでのキャリアに誇りを持たない人や、それを整理できていない人を採用することはありません。
自らの経歴をしっかりと見直し、それを整理・理解することで応募先企業の選択もしやすくなります。すると自分が転職するべき企業を見つけることもできます。さらには、応募書類や面接などでも自らを効率よくアピールすることが可能となるでしょう。
転職の事前準備として、こうした作業を抜かりなく行っておくことをお勧めします。
転職後の希望とキャリアプラン
行き当たりばったりや思いつきでの転職をしようとしていませんか?転職に成功できない人は、実にこのタイプが多いのです。「思いついたら行動しろ」、「思い立ったが吉日」、「やりたいと思ったら迷うな」という他人の言葉を信用しているのなら考え直しましょう。誰もがそのような思いつきや感性で生きて成功を手に入れられるはずがありません。
「自分なら成功できるかもしれない」と考えることや、「考えている暇があったら行動しろ」というような自己啓発を促す言葉は、転職には非常に危険なのです。
上のような言葉を投げかけてくれた人たちは責任を取ってくれるのでしょうか。責任どころか、慰めてもくれないでしょう。「失敗したのは努力が足りないからだ」、「努力の仕方が悪い」などと、さらに厳しい言葉を投げかけてくるかもしれません。
転職活動を始めたらチャレンジする必要がありますが、活動を始める前は冷静に、転職後の希望や自身のキャリアについて丁寧に考えるようにしてください。
過去のキャリアを整理・理解することも重要です。それと同時に未来のキャリアについても整理しておかなければ、それぞれのキャリアを転職によって繋げることはできません。
転職はキャリアをより良いものにするための手段であるにもかかわらず、前後のキャリアについてビジョンが必要です。しかし、これについて考えていない人が非常に多いのが現実です。
転職後の希望やキャリアプランを考えた時には、当然、「今のタイミングでの転職はやめておこう」という選択肢も出てきます。これはが非常に重要なポイントなのです。
同じ会社にいても職種を変えるチャンスはあるかもしれませんし、今後のキャリアを充実度の高いものにするためには、まだまだ今の会社で成果を上げなければならないかもしれません。それがわかった瞬間、それはキャリアアップするための大切なターニングポイントとなるのです。
冷静に考えた上で転職することがベストであるという結論に達すれば、その時はしっかりと行動へと移し、どんどん攻めるべき。冷静に考えもせずに転職を決めることがないようにしましょう。
おわりに
現実とは何か、他の業種や職種の特徴は何か、自らのキャリアや市場価値についてなどを知るために、転職エージェントへと登録しキャリアコンサルタントに相談することには大きな意味があります。誰かのサポートを借りてそれを整理・理解することは恥ずかしいことではありません。むしろキャリアコンサルタントの有効な活用方法なのです。
その前には、自分のキャリアと思いを客観視する冷静な時間を必ずもってください。利用できるものは利用し、その上で転職やキャリアの方向性を見出す。その方向性が間違ったものでなければ、転職によって確実にキャリアアップできます。