自分は翻訳会社に勤務している41歳の男性です。いまから約10年前、出張先のクライアントに指摘されて初めて知ったビジネスマナーに関する常識があります。それはスーツのカラーに関することです。
クライアントと直接打ち合わせ。スーツにも気を使い完璧のはずが…
このとき自分は31歳くらいで、現在と同じく翻訳関係の仕事を行っていました。仕事のほとんどはインターネットを使用して行われるために、クライアントと顔を合わせて話す機会はそれほど多くはありません。
そのため自分はかなり気合を入れて出張先に出かけました。まずは身だしなみからだと感じ、ブラックカラーのスーツにホワイトカラーのシャツを合わせ、ネイビーカラーにストライプ柄の入ったネクタイを締めていったのです。
また普段使用しているブリーフケースはイエローカラーでしたが、このときのためにブラックカラーのものを購入し、それを持って行きました。自分の中ではかなり完璧なコーディネートだと感じていました。
クライアントの事務所に到着すると、まずは会議室に案内され、そこでクライアントを待つことになりました。
ドアが開き、クライアントが入ってくるとすぐに起立して頭を下げ、その後握手を交わしてからにこやかに挨拶しました。クライアントも笑みを浮かべており、その様子をみて緊張が一気にほぐれました。
ここまでは完璧な流れでした。その後自分とクライアントが椅子に座り、仕事の話をしようかと思った矢先、クライアントの口から「なんか、葬式みたいだね」という言葉が発せられたのです。
最初自分にはどういう意味なのかがさっぱりわかりませんでした。もっと明るく、はきはきとしゃべるように促されているのかと思い、「すみません、少し緊張していまして」というと、「いや、君のスーツだよ」とクライアントはいいました。
どういうことなのかと思っていると、クライアントは続けて「黒いスーツは冠婚葬祭のときに着るものだろ」といいました。
クライアントは自分の父親ほどの年齢であったために、このいい方は決して失礼な感じではありませんでした。クライアントも恐らくは自分を息子のような感覚で話してくれていたのだと思います。
マナーも時代の流れで変化していくものだが、本来のマナーを重んじる人もいる
正直、このとき自分はクライアントのいっていることをさらっと聞き流していました。しかし自宅に帰り、インターネットでそのことを調べてみると、クライアントのいった通りでした。
最近ではブラックカラーのスーツが流行っており、それゆえに仕事着として着用することが当たり前のこととなっています。
しかし厳密にいうとブラックカラーのスーツは冠婚葬祭のときにのみ着用するものです。それゆえにブラックカラーのスーツが職場では受け入れられていても、出張や面接などの場では着用を避けたほうがよいということがわかったのです。
もちろん多くの人は時代の流れを汲み取っており、ブラックカラーのスーツに対して理解を示しています。しかし場合によっては常識を重んじる人もいるために、そのような人のことをきちんと考えて行動しなければならないことを今回学ばされました。
もちろんこのことを指摘したクライアントは自分をとがめたりはしませんでしたし、自分が出張先を去るときには笑顔で見送ってくれました。しかしブラックカラーのスーツの話が出たとき、恐らく自分は「この人は何をいっているのだろう」という顔をしていたと思います。
自分が間違っていたのに、クライアントを疑うような顔をしてしまったことに、罪悪感を感じました。たいていのことはわかっているという自信過剰が招いたストーリーですが、幸いまだ31歳とそこそこ若かったために、このときの出来事を境に謙遜になって多くのことを学ぼうと決意しました。
しかし今思い出しても、恥ずかしくなるような出来事でした。